その夜も泰兄がYesterdayに来た。


むき出しのコンクリの上を歩く足音だけでわかる。


泰兄のものだって。


コツリ…コツリ…


妙に間隔の長いその足音。


ねぇ、知ってる?


あなたのこと気にしてないふりをする、私のこの想い。


こんな切なさがあるなんて、今まで知らなかった。


「いらっしゃい」


「今夜は冷えるな」


「あったかいものにする?」


よそよそしかった私の言葉遣いも、この頃にはうち解けたものになっていた。


「そうだな、なんでもいい。とにかく身体があたたまるものをくれ」


「まかせて」


卵を割ると手際よく泡立て、ブランデー、ダークラム、砂糖をシェイクしてあたたかいミルクを注ぐ。


「はい、ホット・ブランデー・エッグ・ノッグよ」


ほのかな湯気が立ち上る。


「ねぇ、いつも思うんだけど、こんな時間にお店抜け出していいの?オーナーなんでしょ?」


私の意地悪な問いかけにも、泰兄は平然とこう答える。


「オーナーだからいなくていいんだ。店が閉まってからが俺の仕事だ」


「ふうん、そうなの」


「それよりおまえ、日曜日の夜はここの仕事休みだろ」


何、突然…


「え、ええ、休みだけど」


必死で平静を装う。


「飯でも食わないか」


顔が一瞬にして熱くなった。


食事だなんて…


「勇作も誘って」


その言葉にすっと熱がひいていくのがわかった。


「え?あ、お兄ちゃんも?」


なんだ、ふたりきりじゃないのね。


「この前はあいつ酔っぱらって、なかなか話らしい話もできなかったしな」


そう言えばお兄ちゃん、あの夜はお酒弱いのに何杯も何杯も飲んでたっけ…


「わかったわ、伝えておく。日曜日ね」


ホッとしたと言うべきか、がっかりしたというべきか。


それでも、仕事以外で泰兄と会えることにドキドキしている私がいた。