私は時計に目をやった。
時刻は日付が変わって、午前0時を過ぎたところ。
ああ、今年もこの日がやってきた。
何年経っても胸が重苦しくなる。
ジッポを握りしめたまま、しばらく目を閉じた。
お父さん、お母さん…
ゆっくり瞼を上げると、泰兄の切れ長の翳りのある目がこちらを見ていた。
私は何度かゆっくりと瞬きをすると、「命日なんです、両親の」と切り出した。
「両親?」
彼の片方の眉がぴくりと上がる。
「ええ、17年前の今日、ふたり同時に亡くしました」
そこまで言うと、お父さんとお母さんへの思いが溢れてきて、声が詰まってしまった。
「ごめんなさい、こんな暗い話」
「かまわない。続けたければ続けろ」
泰兄は視線をグラスに落とすと、ウォッカマティーニを一口飲んだ。
両親が亡くなった理由を、私は今までひたすら隠して生きてきた。
きっとお兄ちゃんもそうに違いない。
たいてい両親を同時に亡くした、と言うと「事故で?」と訊かれる。
「いいえ、違います。実は…」
と真実を語ると、みんなは決まって困惑と同情に満ちた目で私たち兄妹を見た。
そして不幸な子、としてどう扱っていいものかわからずに、相手の方から離れてゆく。
だからあえて言わない。
お父さんとお母さんがどうしてあんな目に遭わなければならなかったのか、なんて…
でももし今、私がその話をしたら、目の前のこの人はどうするかしら。
他の人たちと同じように、私と距離をおくようになるかしら。
それとも親のいない者同士、慰め合うことになるのかしら。
そんな私の思いをよそに、彼はなぜ両親が同時に亡くなったのか、その理由を訊いてはこなかった。
「親父さんは確かバーテンダーだったな」
「ええ、そうです。実は亡くなる前に約束してくれたんです。私の名前を付けたカクテルを作って、コンクールで優勝するって」
私は彼から目をそらせた。
真正面から見つめることなんてできない。
彼だってきっとこんな話、重苦しいに決まってる。
グラスを磨く手元に視線を落としながら、私は続ける。
「いつか世界中で飲まれるカクテルになればいいって、そう言っていたのに、叶わない夢になってしまって」
「おまえの名前のカクテルか」
彼の視線を感じるけれど、決して顔を上げない私。
「はい。MAKOTOと…」


