「あなた、本当に女の子を褒めるのがヘタ」って。
「ごめんね、真琴ちゃん。これだからオジサンって面倒くさいのよね。でも褒めてるつもりだから許してやってね」
一応の褒め言葉なんだ。
「真琴ちゃんはすごく素敵よ。その女らしい身体のラインなんて、男の人ならみんな釘付けよ」
「また、そんなこと。私は痩せたくて仕方ないのに」
「なーに言ってるのよ。今のままでも充分細いじゃない。それにこの人が言いたいのは、真琴ちゃんには見た目だけじゃない、奥行きのある美しさが備わってるってこと。ね?そうでしょ、あなた」
「そうそう!」
奥行きのある美しさ?
「特にね、その目。目に命が宿ってる」
「目に?」
「そうだよ、心がそのままにじみ出てる。人生経験を積んできたオジサンたちはそういうのがわかるんだ。そして惹かれる。若い男に比べたら見る目はあるぞぉ」
「ちょっと、妻を前に若い子を口説かないでくれる?」
ちょっとやらしそうな顔をしたマスターに、頬を膨らませる恵美さん。
なんだかおかしくて、三人でお腹が痛くなるほど笑った。
その夜も泰兄は私のカウンターにやってきた。
マスターも最近では、どうぞ、と私のカウンターへ案内する。
先ほどのカッターシャツの話が気になって、思わず自分の服装をチェックしてしまった。
「いらっしゃいませ、こんばんわ」
ああ、彼が来る度に胸の高鳴りが激しくなる。
どうにかしないと、本当に彼に堕ちてしまう。
でも、どうにかするって…
一体どうしたらいいの?
「ウォッカマティーニ」それが今夜の泰兄の最初の注文。
強いお酒をいつも3杯は飲んで帰る。
でもそのせいで饒舌になったり、足がふらつくことも、ましてや顔が赤くなったりすることもない。
彼が胸元から煙草を取りだした。
いつものように、私は手持ちもジッポで彼のくわえた煙草に火をつけた。
このジッポはお父さんの形見。
泰兄が以前褒めてくれたもの。


