交差点で、俺は前から来る男に釘付けだった。
忘れるはずもない、なつみ園で4年も一緒だったんだ。
泰輔兄さん…
真琴も気付いたようで、俺の腕をつかむ手に力が入った。
彼は女性を連れていた。
華やかさを辺り一面にふりまくような、そんな女性。
一瞬だけだったが、彼と目が合った。
その時、彼は笑ったんだ。
昔と変わらない、少しヒネた笑み。
あれはいつも「なるほどね」と妙に何かを悟った時にする顔だ。
ゾクッとした。
俺が片桐勇作であることに気付いているのはもちろんだ。
だけど、もっと俺の背筋を寒くさせたこと。
それは彼が俺の秘密を握っていたんだ、ということ。
不安がむくむくと湧き上がってくる。
真琴の最近の様子から、泰輔兄さんと接触しているのは明らかだ。
彼が真琴に、その「秘密」を漏らさないとは限らない。
何とかそれを阻止しなければならないと思った。
俺は真琴を見た。
彼女はショーウィンドウの前に立ってはいるものの、ガラスの向こうにディスプレイを眺めているわけじゃなかった。
そこに映る自分を見ていた。
悲しそうに。
そして悔しそうに。
きっと泰輔兄さんが連れていた女性と自分を比較しているに違いない。
俺は何も知らないふりをして、真琴の横に並んだ。
心配するなよ、おまえだっていい女だよ。
父さんによく似たそのアーモンド型の瞳に、形のいい柔らかそうな唇。
きめのこまやかな、その肌。
おまえはもっと痩せたいとかって言うけれど、曲線を描く身体のラインは、みんながみんな出せるわけじゃない。
真琴、おまえはきれいだ。
誰にも負けたりしていない。


