「欲しいものって何だよ、これか?」
何も知らないお兄ちゃんが隣に並んで、ショーウィンドウをのぞきこんだ。
「別に」
「変なやつ。さっきからどうしたんだよ」
「何もないってば」
「ならいいけど。じゃあさ、ちょっと付き合ってほしいところがあるんだ」
「まさか、取材の下見だなんて言わないでしょうね」
「そのまさか」
絶対いやよ、そう言う前にお兄ちゃんは私の手を引いてどんどん歩き出した。
もう、お兄ちゃんこそ、せっかくの休みの日に仕事のこと考えて。
連れて来られたのは、小さな美容室「ジョアン」。
白を基調とした内装で、清潔感の溢れる店だった。
「ここ?」
「ああ、本通りで唯一24時間営業してる店なんだ」
「美容院が24時間?初めて聞いた」
「知らなかっただろ」
「まぁ、朝早くとか夜遅くにお世話になることないから」
「ホステス御用達の店ってわけだよ。腕もかなりいいって評判なんだ。オーナーはまだ若いらしいんだけど」
「ふうん、で?」
お兄ちゃんはにっこり笑うと、私の手を引いて店に入っていった。
「ちょっとお兄ちゃん!?」
「すみません、予約はしてないんですが、今からでもいいですか?」
「お兄ちゃん!」


