あれから泰兄は、ぱったりとYesterdayに顔を見せなくなった。
ハンドクリームの小瓶を見る度に、あの匂いをかぐ度に彼のことを思ってしまう。
忙しいの?
それともこの間のことで、機嫌を損ねてしまったの?
「真琴!」
私は急に腕をつかまれ、後方に引き戻された。
「信号が赤だよ!」
「え?…ああ、ごめんなさい」
「大丈夫かい?せっかくの休みなんだから家でゆっくり寝てたほうがよかったんじゃないか?」
今日は日曜日。
今夜はシトラスでのバイトも、Yesterdayでの仕事もない。
朝帰ってきて、そのままお兄ちゃんとデート。
ただ眠いのは確か。
さすがに昨日は土曜日だったので、Yesterdayは大忙しだったし。
いつもならこの時間は私は夢の中。
「ううん、平気よ。ここまで来たんだから、何か買ってもらおうと思って」
「やっぱりそうきたか」
私はお兄ちゃんの腕に自分の腕をからめた。
「おいおい、勘違いされるって」
「いいじゃない。お兄ちゃん、彼女いないんだから」
「それもそうか。おまえも彼氏いないし」
「もう!私のことは別に言わなくていいの!」
「なんだそれ」
きっと私たち兄妹がこうやっていると、恋人同士に見えるだろう。
だって私たちはあまり似ていない。
私はお父さんにそっくりだけど、お兄ちゃんは…
どちらかといえばお母さん似…なのかな。
よくわからない。
学生時代はよくモテていたようだけれど、特定の恋人っていなかった気がする。
私に内緒でこっそり付き合ってたのかも。
癖のある柔らかな髪に、日本人離れした甘いマスク。
今だってほら、何人かお兄ちゃんを振り返る人だっているんだから。
みんな、隣に寄り添ってるのは恋人だと思ってるでしょ。
でもね、実は妹なのよ、なんて内心笑って楽しんでる私。


