「おーい、フライングだぞー」
頭をかきながら、天宮先生が私たちに歩み寄ってきた。
「ちゃんと十字架の前で誓えよ。俺がいる意味ないだろ」
「先生ねー久々の結婚式で張り切ってたんだよねー」
子どもたちがそう言って笑う。
「おい、おまえら!余計なこと言うんじゃない」
そんな彼らに、私たちふたりも声をたてて笑った。
その時、パラパラと頭上から何かが降ってきた。
「…何?」
見上げると、白い粒が太陽に反射してキラキラ輝いている。
ライスシャワーだ。
なつみ園の子どもたちが私たちのために、空に向かって投げている。
それが私と泰兄の上に、光の玉のようになって降り注ぐ。
「おめでとー!!」
飛び交う明るい声の数々。
その中にまたしても天宮先生の慌てた声が混じる。
「こらぁ!ライスシャワーはまだだ!式の後だって言っただろ!こら、おまえら聞いてるのか、やめろって!」
くすりと笑って顔を見合わせると、ふたりで空を見上げた。
お互いに握り合った手が固く固く結ばれる。
ねぇ、泰兄。
いつまでも一緒よ。
私の手をもう離さないで。
この空の果てまでずっと…
ずっとよ…
「ママぁ…」
その時、のぞみに抱かれた美月が私に手を伸ばした。
「盛り上がるのはいいけど、みぃちゃんのこと忘れないでよね」
のぞみは苦笑しながら、美月を連れてくる。
「おいで、美月」
涙でグシャグシャの私の様子に、とまどう美月。
私がどうして泣いてるのかわからず、不安そう。
母親が突然現れた男に泣かされたと思ったのか、美月は泰兄を鋭い目でにらみつける。
「パパよ。美月のパパよ」
それでもにらみつける目は変わらない。
無理もないこと。
生まれてこの方、父親に会ったことがないのだから。
とまどうのは当たり前。