席についた泰兄は、煙草を取り出した。
すかさず差し出した私の手元を見て、「いいライターだ」と言う。
「父の形見です」
「親父さんの?」
「はい。バーテンダーでした」
「なるほど。だから今こうしてここにいるのか」
私は黙って頷いた。
「勇作…だったかな、兄貴の。元気か?」
「ええ。中央新聞社の記者をしています」
「あいつらしいな」
あっさりとしていて、どことなくぎこちない近況報告。
「今夜は昨晩の彼女はご一緒じゃないんですね」
そう訊いてしまってから、余計なことだったと反省する私。
「ああ、あれは他の店のホステスだ。うちの店に引き抜こうかと思ってな。いわゆる『接待』にすぎない」
接待?
そうかしら?
彼女は泰兄のことを「大切な人」だと言っていたし、あなたもまんざらでもなさそうだったじゃない。
「泰…いえ、相原さまはクラブを経営なさっておられるのですか?」
私の質問に、彼は一枚の名刺を渡した。
相原泰輔、と書かれた右肩に小さくではあるがこう記されていた。
「Club AGEHA 代表取締役…」
その肩書きを口にして、私は自分でも驚くほどの大きな声を出していた。
「あの『AGEHA』ですか!?」
この本通り界隈では、1位2位を争う高級クラブだ。
泰兄がそこのオーナー…
どおりで身なりがいいはずよね。
驚いた顔の私を見て、泰兄は鼻で軽く笑った。
「そんなことより、ウィスキーを。ロックで」
「あ、はい…かしこまりました」


