~相原泰輔~
あと何日、俺は愛する女と共に過ごせるのだろうか。
そしてあいつの誕生日を共に迎えることができるのだろうか。
「泰輔さん」と心配そうに俺をのぞき込む勝平。
「俺が代わりに警察に出頭します。浅井に頼んで、俺が金を動かしていたことにするんです」
真顔の勝平の顔を見ていると、こんな切羽詰まった状況にもついつい笑ってしまう。
「冗談で言ってるんじゃありません、俺は本気です。泰輔さんのためならどんなことだってする覚悟です」
「だからおまえは馬鹿なんだ。警察もおまえに組織の金を扱える器量があるとは間違っても思わないさ」
「それはそうですが…」
「それにおまえが守るべきは家族であって、俺じゃない」
「じゃあ、俺にできることは一体何だっていうんですか」
悔しそうな顔で訴える勝平。
「その気持ちだけで充分だ。自分のやったことのケリは自分でつける」
直人さんには、勇作が隠し資金のデータを持ち出したことはすでに告げてあった。
報告を終えた後、ただ彼は静かに頷き「身の回りのきちんとしておけ。悔いのないように」とだけ言った。
俺がしばらく娑婆には戻って来られそうにないことを見越してのことだろう。
だがあのマンションも、車も、金も俺にとっては価値はない。
それは直人さんもわかっている。
彼が伝えたかったのは…
マコのことだ。
あいつのことをきちんとしておけ、そう直人さんは言いたかったのだ。
命に代えても守らねばならないもの。
よりによって入籍を間近に控えた時に、こんな事態になるとは思ってもみなかった。
あと数日で警察が俺のもとにやってくるだろう。
マコにはそれを知らせるつもりはない。
逮捕されるであろうことも、そしてそのきっかけを作ったのが他ならぬ勇作であることも。
あいつにとって、勇作はたったひとりの「肉親」だ。
兄が結婚する、そう聞いて誰よりも喜んだのはマコだ。
どれほど勇作と北村翠の幸せを願ったことか。
なのに彼らが自分に近付くために嘘をついていたと知れば、マコの悲しみは計り知れない。
それだけは避けたい。
裏切られ、うちひしがれるマコだけは見たくない。
だから俺の口からは決して「真実」を語るまい、そう心に誓った。


