その日もいつもと同じようにシトラスのバイトを終えて、Yesterdayに向かった。
カウンターを拭いている時、ふと昨晩彼がここに座っていたのだと思い、ダスターを持った手を止めた。
なんだか昔に比べて、よく笑ってた気がする。
もっとしっかりその笑顔を見ておけばよかった…
『また来る』
ね、本当に来てくれる?
また笑った顔を見せてくれる?
ねぇ、いつ?
今夜?
ううん、昨日来たばかりだもの、ありえない。
彼のその言葉を信じていた自分に気がつき、私は少し戸惑った。
社交辞令に決まってるのに。
彼が身につけているもの全てが一流ブランドだった。
今は成功しているに違いない。
そんな人が、施設出身を思い出させるような私に何度も会いに来るわけがない。
きっと消し去りたい過去のひとつ。
私にもそんな「過去」があるからわかる。
「真琴ちゃん、どした?」
口ひげを蓄えたマスターが怪訝に首を傾げた。
「いえ、なんでもありません」
にっこり笑ってそう返すと、私は果物ナイフの手入れを始めた。


