~片桐勇作~
ボディガードだろうか、若い男と別れマンションに入ってゆく彼女の後ろ姿に声をかけた。
「真琴」
びくっと肩を揺らすと、バッグから取りだしたばかりのキーを握りしめ、真琴はゆっくりと振り返った。
「…お兄ちゃん」
警戒心漂う瞳が、ふっと緩む。
「どうしたの?」
「翠とよく会ってるって聞いたもんだから」
「ええ。でも最近は忙しいのかしら、彼女から連絡なくて。それにしても、とても素敵な人ね」
「そうかい?」
「うん、私も安心したわ」
「安心?何が?」
「決まってるじゃない、結婚するんでしょ。お兄ちゃんのことすごく大切に想ってくれてるわ」
真琴の言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
何がおかしいの、そんな目をして彼女は俺を見る。
「俺は、今でもおまえをあきらめたわけじゃないんだ」
みるみるうちに険しい顔になる真琴。
「何を言ってるの!翠さんは…!」
そこまで言って、何かに気付いたように黙りこくる。
きっと「翠が妊娠している」とでも言いたかったのだろう。
彼女の演技が上手かったんだろうな、真琴はすっかりそれを信じていた。
だが彼女に口止めでもされてるのか、その件に関して真琴は途中で言葉を切ったまま「…とにかく、翠さんを大切にしてあげて」とだけ言った。
「おまえ以上に大切に思える女性には、一生出逢えないよ」
「もうやめて!」
真琴は眉をひそめて、背を向けた。
早く俺との話を切り上げたい、そんな感じだった。


