「いらない、こんなもの」
「マコ」
「いらない!」
泰兄に抱きつく。
「お願い、こんなことしないで。あなたが私を置いて、どこかに行こうとしてるみたいじゃない。いやよ、そんなの」
「俺だっておまえのそばにいたいと思ってる。だが、この世界に『絶対』はないんだ」
「いや、そんなの」
「俺の妻になるなら、それくらいの覚悟をしろ」
「泰兄…」
「いつかこの金が必要になる日が来るかもしれない。だから今のうちにおまえに託す。いいか、俺がパクられたと連絡が入ったら、家宅捜索が入る前にこの家からおまえの身元がわかるものを全て持って出ろ。おまえがここにいたことを決して残すな」
渋々、こくん、と頷いた私に彼は笑いながら言った。
「もしもの時の話だ。だいたいおまえは深刻に受け止めすぎる」
胸から私を引き離すと、彼は「わかったな」と言わんばかりに片方の眉だけを持ち上げた。
ねぇ、泰兄。
本当に私の考えすぎ?
私たちは結婚することができるの?
無事にあなたの妻になれる?
あと10日よ。
私が片桐真琴から相原真琴になるまで…
「そういえばおまえ、体調はどうなんだ。微熱があるって言ってただろ」
「ああ、あれね。ええ、大丈夫よ」
と彼には答えたけれど、今でも熱っぽくてだるくて。
まるで風邪をひいた時のような症状が続いている。
だけど、それを泰兄に言えないでいた。
言えるはずもない。
こんな身の回りを片付けている彼に…。
今、彼がとてつもなく大きな出来事を抱えているような気がしたから。
その抱えている事が、決していいものではないこともわかっている。
不吉な予感。
私ね、あなたに言わなきゃならないことがあるの。
でも、このことを笑って伝えられる日がくるのかしら。
あのね、泰兄…
私…
私、実はね…


