「金輪際、真琴に会わないと約束してくれるなら、これはお返ししましょう」
「そこまでしておまえは…」
「取引するのかしないのか!どうなんです!」
泰輔兄さんにその続きを言われるのがたまらなく嫌で、荒げた声をあげた。
…ああ、そうですよ。
こんなやり方をしてまでも、俺はあなたから真琴を引き離したい。
たとえ真琴が俺のもとに戻ってこなくても、あなたのものになるよりはまだマシだから。
「どうしますか、取引します?」
メモリを彼の前にちらつかせた。
きっとこの取引に応じてくる、俺は確信していた。
相原泰輔ともあろう男が、圭条会と女を天秤にかけるようなことはしない。
答えは決まってる。
組織を守る、それしかない。
そういう男なんだ、この人は。
俺は完全にたかをくくっていた。
だから泰輔兄さんの発した言葉がにわかには信じられなかった。
「断る」
「なんですって?」
「俺は逃げも隠れもしない。ムショ送りはこの世界に入った時から覚悟している」
「……」
「どうせあいつと引き裂かれるのなら、俺は最後まで潔くありたい」
自分の顔面が小刻みに痙攣するのを感じた。
「…圭条会がどうなってもいい、と?」
動揺が声に表れてしまった。
泰輔兄さんはそんな俺を見て、あの笑みを浮かべた。
何もかも悟ったような、そして相手を見下すような冷たい笑いを…
「あれくらいのはした金を失ったくらいで、圭条会は揺らぐ組織じゃない」
「はした金!?52億がはした金だと!?」
「ああ」
後頭部を殴られたような気がした。
「まさか…」
「そうだ。おとり、隠れ蓑、そんなやつだよ。おまえがここまでして手に入れた情報はな」
「馬鹿な!そんなことあり得ない!」
「圭条会の資金、しかも52億ともなれば警察は浮き足立つ。これで圭条会も終わりだってな。これを摘発すればあいつらは大満足だ」
嘘だ…
「だが俺たちにしてみればたった52億。もっと大きなものを守るための、小さな出費だ」


