~片桐勇作~
部屋に入ってくるなり、翠は力尽きたように座り込んだ。
「どうだった?」
俺の第一声に顔をしかめる。
まずは私の心配をしてくれてもいいんじゃない?と言わんばかりだ。
そうだった、結果を急ぐあまりねぎらいの言葉を忘れていた。
「大丈夫?翠…」
どうも、とってつけたような言い方になってしまう。
翠は不機嫌な顔のままバックからフラッシュメモリを取りだし、俺めがけて投げつけた。
「おっと」
両手でそれを受け取る。
「危ないところだったのよ。帰りのエレベーターで相原にばったり会っちゃって…もう少し長居してたらと思うとゾッとするわ」
それを聞いて、俺は内心ヒヤリとした。
「ごめん、君をこんな目に遭わせて」
今すぐにでもメモリを確認したい気持ちを抑えて、翠を抱きしめる。
「ありがとう」
やっと安心したように彼女は身体を俺の胸に委ねた。
「でも、胸が痛むわ。真琴ちゃんのこと」
実は、翠はこれまでに何度か真琴と接触するにつれ、「これ以上騙すなんてできない」と言うようになっていた。
それを何とかなだめて、今日の計画を実行したのだ。
「真琴ちゃん、本当にいい子なのに…私ったら嘘ばっかり。しかもあなたとの子を妊娠しただなんて…」
「君のせいじゃないよ。それに真琴こそが相原に騙されてるんだ。取り戻すためにはこうするしかなかったんだよ」
「でも勇作、真琴ちゃんは彼のことをとても愛してるわよ」
「……」
「入籍はまだしてないんですって。真琴ちゃんの誕生日に届けを出すって。ね、私たちも届けを出すときは私の誕生日にするっていうのも悪くないわね」
「ああ、そうだね」
「ね、真琴ちゃんから彼を取り上げちゃっていいの?かわいそうだと思わない?」
「思わないよ。圭条会の人間なんかに真琴は渡さない。不幸になるのは目に見えてる」
「勇作はシスコンね」
「そうかな」
「そうよ。私、義理の妹に嫉妬しちゃうかも」
翠が俺の背中に手を回してきた。
…違うよ、翠。
シスコンなんかじゃないよ。
俺は、真琴を愛してるんだ。
妹としてじゃなく、女性として、ね。


