あの女…
その時、雷に打たれたかのような衝撃が俺の全身を貫いた。
どうしてあの時、女がピンクのマーチに乗り込むことに気付かなかったのか。
そしてあの横顔。
右目尻のほくろ。
県警組織犯罪対策課で、ヤクザと深い仲にある浅井とホテルから出てきた女だ。
どういうことだ、勇作の婚約者が浅井と寝た…?
だがすぐに勇作のあの時の言葉が蘇った。
『どんなことをしても、あなたたちふたりを引き裂いてみせます』
…勇作。
これはおまえが仕組んだことか?
北村翠を使って、マコに接近させる。
同時に圭条会の情報を浅井から仕入れる。
全てはおまえの復讐のためか?
俺に対する復讐のためか。
困った人間を放ってはおけないマコの性分を利用して、まんまとここまであがりこんだ。
ただ、俺も迂闊だった。
マコの、兄としての勇作を案ずる気持ちを侮っていた。
たとえ勇作とは血が繋がっていなくとも、苦楽を共にしてきた同志であり、家族であることに違いはないのだ。
そんな兄の婚約者が目の前に現れ、その上妊娠して体調が悪いと聞かされたならば、優しいマコのことだ、部屋にあげてしまうのも無理はない。
おそらく北村翠が婚約者であることも、ましてや妊娠していることも、勇作の考えたシナリオに違いない。
今こうしている間にも、あのデータは勇作の手に渡っていることだろう。
きっとあいつは警察にメモリを証拠として提出する。
だったら先手を打って、浅井を攻略するか。
しかし、すぐにその考えを打ち消す。
浅井は北村翠と深い関係にあることを勇作に握られているだろう。
もし勇作が不倫関係を公にするとほのめかせば、浅井は保身を第一に考えるに違いない。
あるいは、圭条会の資金隠しを暴いた手柄は浅井のものにしてもいい、そう言われればなおさらだ。
どちらにしても、浅井がこの件で圭条会を見限ることは目に見えて明らかだ。
圭条会側に浅井がつかないように、勇作は北村翠を使った。
先の先まで見越して、全てを計画したのか…
ベッドに仰向けになった。
真っ白な天井を見ながら呟く。
「万事休す、か」
まもなく、俺は警察の標的となるだろう。
それは覚悟していたことだ。
だが、これからこの広いベッドにマコはひとりで眠ることになるのか、そう思うとやりきれなかった。
そんな時、リビングから彼女の明るい声が俺を呼んだ。
「コーヒー入ったわよー。おいしいかどうかは自信ないけどー」と。


