~片桐真琴~
翠さんとの約束の時間に合わせて身支度を調えていると、電話が鳴った。
「もしもし、翠さん?」
急に都合が悪くなったのかと思った。
「もしもし?」
『…ちゃん…』
か細い、消え入りそうな声が電話の向こうから聞こえてきた。
「翠さん!?どうしたんですか」
ただごとではないと思った私は、思わず大きな声で呼びかけていた。
「翠さんっ」
『今ね、取材で真琴ちゃんのマンションの近くまで来てたんだけど…またちょっと具合が…』
途切れ途切れに耳に伝わる言葉を聞きながら、私はすでに玄関で靴を履いていた。
「今どちらですか?私、迎えに行きますから」
エレベーターに乗り込み、扉を閉めるボタンを何度も押した。
私の焦りをからかうかのように、ゆっくりと閉まるドア。
降下するスピードもじれったいくらい。
マンションを出て、目の前の通りを走る。
2つめの交差点の角で、うずくまる翠さんの姿を見つけて駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「…あ…ごめんね」
ハンカチで口元を押さえながら、つらそうに目を閉じる。
「救急車を呼びましょうか」
そう言うと、慌てた様子で彼女は私の腕をつかんだ。
「いいの、たいしたことないから」
「でもこの前も同じように具合が悪くなったでしょう、一度病院で診てもらったほうが…」
「真琴ちゃん」
私の言葉を遮るように、彼女はこう告げた。
「私ね、妊娠してるの」と。


