ふたり。-Triangle Love の果てに

~片桐真琴~

私はなぜか落ち着かなかった。


家に帰る途中も、手に持ったコースターを何度も見返していた。


にじんだ文字がそのまま消えてしまうのではないかと、心配だったから。


『久しぶり』


覚えていてくれたの?


こんな私のこと…


嬉しさと同時に、次に会った時にはどんな顔をすればいいのか、照れくささに似た困惑があった。


古くてきしむドアをそうっと開けると、部屋に入った。


お兄ちゃんは当然まだ眠っている。


できるだけ音をたてないように着替えると、朝食の準備に取りかかった。


お兄ちゃんもびっくりするわね、泰兄に会ったって話したら…


でもすぐに思い直して、ダイニングテーブルの上に置いた泰兄の「置き手紙」を、自室のチェストの引き出しに入れた。


幼い子どもが、自分だけの秘密の宝物を隠すみたいに。


それに似た、この再会の不思議な気持ちを隠すみたいに。


お兄ちゃんには、しばらく言わないでおこう…かな…



いつもと変わらない、兄妹ふたりの朝食。


そして相変わらず寝ぐせ全開のお兄ちゃん。


今日もオムレツが皿に、ででん、と居座っている。


キャベツの千切りに、天かすと玉子を落として形を整えただけの「お好み焼き風オムレツ」。


お兄ちゃんはこれが大好き。


ソースとマヨネーズをたっぷりとかけて食べる。


「やっぱりこれに限るなぁ」なんて嬉しそう。


私は箸を置いた。


「ねぇ、お兄ちゃんはなつみ園にいた『泰兄』のこと覚えてる?」


「タイニー?」


「うん。木から降りられなくなった私を助ける時にここにケガをした…」


私は左のこめかみを指さした。


「ああ、はいはい。泰輔兄さんね。覚えてる覚えてる。俺より1つか2つ年上だったかな、同じ部屋だったよ」


お兄ちゃんは低くてシミだらけの天井を見ながら、懐かしそうに目を細めた。


「それがどうかした?」


「どんな人だったの?」


私はお兄ちゃんの質問に、質問で返した。


「うーん、必要最低限なことしか話さない人だったからなぁ。でも優しい人だなぁって思ったよ」


「思ったって、どうして?」


「どうしてって…おまえ助けてもらったんだろ」


「まぁそうだけど。それだけで優しいって思ったの?」


「あれはいつだったかなぁ。俺たちの部屋の窓のひさしに、ハトが巣を作ったんだ」


お兄ちゃんも箸を置いて話し始めた。