~片桐勇作~

泰輔兄さんとプライベートバンク「アペルト」の高雄が定期的に接触していることは確かだ。


だけど、その現場をどうしても押さえられない。


相手側も警戒をしているのか、会う場所は泰輔兄さんのマンションか、アペルトの入っているビル内。


確実な証拠がなければ、彼らを攻めることはできない。


たまたま同じマンションに、あるいは同じビルに用事があっただけでお互い面識もない、と言われればおしまいだ。


下手なことをして、こちらの動きを感づかれては今までの苦労が水の泡だ。


何とかして泰輔兄さんと高雄がふたりで会っている現場、あるいは接点があるという証拠をつかまなくては…


「どうしたの、怖い顔」


北村翠が上半身を起こして、のぞきこんできた。


胸元には小さなシルバーのクロスネックレスが揺れている。


俺があげたものだ。


去年の真琴の誕生日にと準備していたのに、あいつが泰輔兄さんと別れたと聞いてそれどころじゃなかったから…。


結局バタバタしてて、渡せず終いだった。


その上、あのふたりが寄りを戻したことで俺と真琴はあんなことになってしまった。


未だに連絡は取っていない。


だから持っていても仕方のないものだと、つい最近になって翠にあげた。


「ね、いつ両親に会ってくれる?」


長い髪が、俺の肩をくすぐる。


「今の仕事が一段落したら、挨拶にうかがうよ」


「今の仕事って、あの圭条会の資金隠しの件?」


何も答えない俺に、翠は眉をひそめた。


「もう警察に任せたほうがいいんじゃないの?このままだと、あなたも危険な目に遭うかもしれない。深追いはよくないわ」


警察に?


冗談じゃない。


あいつらは高雄を一度は捕まえておきながら、証拠不十分で釈放してしまった。


結局今もあいつに好き放題させてるじゃないか。


能無しには任せられない。


警察や検察を使うのは、最後の最後だ。


それまでは俺が必ず証拠を握ってやる。


「勇作ったら聞いてるの?」


「ああ、そうだね。ほどほどにしておくよ」


「父なんてあなたに会うのを、すっごく楽しみにしてるのよ」


滑らかな肌が、俺の体に吸い付くようにまとわりつく。


「だけど、俺に両親がいないことは知らせてないんだよね」


少し間をおいて、彼女は「ええ」とうなずいた。


「でも、そんなの関係ないじゃない、あなたはあなたなんだから」


「そうかな。大事な一人娘をどこの馬の骨ともわからない男にはやれないんじゃないかな」


「そんなことない」


しきりに首をふる彼女。