黒のクラウンの後部座席。
運転席には、いかつい男。
「名前は」
オーナーが訊いてきた。
まずは自分から名乗れよ、そう思って答えなかった。
勝手に連れ出しておいて、何なんだよ。
あからさまに不機嫌な顔をして窓の外を見ていると、オーナーはおかしそうに笑った。
「こんなことをして気に入らないのはわかってるさ、相原泰輔」
「なんで俺の名前知ってんだよ」
「名札」
パチンコ店の制服の胸元を見て、俺はわざと大きな舌打ちをした。
じゃあ、訊くなよ、面倒臭せぇ。
「仕事には慣れたか?」
「慣れるもなにも、単純なことしかしてませんから」
「まぁな、正直なやつだな」
ははっと彼は笑うと、また質問をしてきた。
「両親は」
「いません」
「いつから」
「さぁ、生まれたときにはもういなかったんじゃないですかね」
「施設育ちか。どこのだ」
「豊浜にある、なつみ園というところです」
「親戚は」
「いませんよ。いたとしても、俺の存在なんて知らないでしょうね」
「なるほど。行くところはないってわけか」
何なんだよ、いちいち気に障る言い方しやがって。
「運転免許は」
「持ってません」
持ってるわけないだろ、毎月ギリギリの生活してんのによ。
教習所に通う金なんてあるかよ。
「あの、一体何なんですか。急に連れ出されたかと思えば、次は質問責めだ」
すると、オーナーは微かに口元を緩めると、胸ポケットから封筒を取りだした。
「期限は2週間だ」
「は?」
「2週間で免許を取ってこい」
そう言って、ぽん、とその封筒を俺の膝の上に投げた。
金が入っているようだった。
「なんで俺が、あんたの指図でそんなことをしなきゃならないんです」
だいたい2週間って、最短コースもいいとこだ…
「今のままでいいのか。免許を取れば、もっと仕事の幅が広がる。あんなパチンコ店の単純作業から抜け出せる。そのチャンスを俺はやるんだ、ありがたいと思わないか」
「思いませんね、むしろ気味が悪い。初対面の人にそんなことをしてもらう理由が全く見当たらない」
「理由?」
「ええ。普通なら騙されてる、それか何らかの見返りを求められる、そう思うのが当然でしょう」
「思った以上にしっかりしたやつだ。気に入った。最近のやつはラッキーとばかりに、ホイホイついてくるのにな」
俺は完全にキレた。


