「いいか、この世界は目上の者が白だといえば白なんだ。たとえそれが黒であってもだ。勝平にとって俺の言うことは絶対だ。やれと言われていたことを途中で投げ出した。ガキが生まれようがそんなのは関係ない」
「でも彼は…」
「女のおまえが、俺たちの世界に口を出すんじゃない!!」
久々の大声だった。
もちろんマコにしてみれば、初めて聞く俺のそんな怒鳴り声。
凍り付いた身体。
大きく見開いた目の縁がじわっと赤くなるのがわかった。
いいか、マコ。
おまえが勝平をかばう気持ちはよくわかる。
出産に立ち会わせたい、その気持ちもよくわかる。
俺だってそうさせてやりたいと思っただろう。
でもあいつには与えられた役割があった。
それを俺に無断で放り出した結果、こんなことになった。
許されることではない。
しかも健吾さんにまでご迷惑をおかけしてしまった。
だがそんな俺の気持ちを、つらつらとマコに説明する気はなかった。
いくら話しても、今のマコがすんなりと受け入れてくれるわけがないと思ったからだ。
「俺は今から出かける。勝平の代わりのやつをここに寄越す。おまえも勝手な行動をするな」
いつもなら玄関先まで送りに出てくる彼女だが、さすがに今日はそれがない。
マコ…
実を言うと、俺はおまえに対してもイライラしている。
ケガがなかったからいい?
ふざけるな!
たまたま健吾さんに助けてもらっただけだろ。
彼がいなかったら、酷い目に遭わされた可能性だって充分にある。
もし俺が、おまえをどれだけ大切に思っているのかを伝えていれば、そんな言葉なんて出てこないのか?
どうなんだ!
俺はこの苛立ちの本当の理由がもっと別にあることをわかっていた。
それは健吾さんだ。
マコを助けてくれたことには感謝する。
だが、あの時俺が声をかけずにいたら、彼はきっとマコに…
考えたくもなかった。
気持ちを切り替えるために、調えたはずのネクタイの結び目を何度も触った。
今から俺は鶴崎組を訪れる。
冷静さを欠いたら負けだ。
健吾さんの言った、マコを襲った連中の正体…
『鶴崎組の若い衆だよ』
どういうことなのか、はっきりさせてやる。
なぜ、おれの女を襲ったのか。
理由はどうであれ、あいつを傷付けるやつは許さない。
たとえ誰であってもな。


