それは午後4時を少し回った時だった。
客足が少し途絶える時間帯。
店内には私たち以外に誰もいない。
落ち着かないのか、ゆり子さんは店の中央に置いてある大きな花瓶に花を生け直していた。
カランコロン…
今日何度目かの、ドアベルの奏でるメロディー。
「いらっしゃ…い…」
言葉の途切れたゆり子さん。
同時に手に持っていたカスミソウが床に落ちた。
拾うことすら忘れて、彼女は今店に入ってきた人をじっと見ている。
私は確信した。
この人だ、この人がゆりこさんが2年も待ち続けた人だ、って。
逆光で顔はよく見えないけれど、スーツ姿のその人はドアの前で立ったまま。
ゆり子さんも身動きひとつしない。
でもその瞳は激しく揺れていた。
「あ、あの!買い忘れたものがあるので行ってきます!」
咄嗟に思いついた言葉を並べて、私は店を飛び出した。
ふたりきりにさせてあげなきゃ。
邪魔しちゃいけない。
2年ぶりの再会なんだもの。
とりあえず角まで全力で走った。
立ち止まると、じわじわと私にまで嬉しさが広がる。
よかった、来てくれたんだ。
顔が緩むのをどうにかして堪える。
今日はこのままシトラスには戻らずに、Yesterdayの仕事に行こう。
ゆり子さんにそうメールしよう、とエプロンのポケットをまさぐってそこで初めて気付いたの。
財布も携帯も、何もかも持ってきてないって。
今取りに帰るなんてできるわけないし…
どうやって時間潰そう。
「やだ、もう。ほんっとに私ってば肝心な時に鈍くさい」
そう呟いた時だった。


