「嘘つき!信じられない!」
全身ずぶ濡れのまま、私は立ち上がった。
浴衣が濡れて重くなり、身体のラインにくっきり沿うように肌に張り付いている。
やだ、もう!
肩まで湯につかる。
「ほんっとに信じられない!」
髪から落ちる滴を払いながら怒る私を、彼は引き寄せた。
「悪い悪い」って、ちっともそんなふうには思ってないくせに。
浴衣がまとわりつく。
泰兄は私の顔を両手で包むと、額、目…と順に見つめていく。
そんな彼の瞳の動きを私は追った。
そして最後に口元でその動きが止まると、長い指が髪を分け入るようにして私の顔を引き寄せた。
「…俺が憎いか」
あの夜と同じセリフ。
あなたが圭条会の人間と知ってしまったあの夜と…
「憎いわ」
そう答えると、泰兄は長い瞬きを一度だけした。
そしてこうも訊いた。
それもあの時と同じ。
「俺が怖いか」
彼の目を見て答える。
だけど、私の答えはあの時とは違っていた。
「ええ、怖いわ、とっても…」
「…そうか」
私たちはお互いに小さく笑うと、じゃれあうように鼻と鼻をくっつけた。
それだけでは物足りなくなって、唇を重ね合わせる。
泰兄の手が、水分を含んで硬くなった浴衣の帯の結び目を器用にほどいた。
もう恥ずかしさなんて感じない。
彼の手が首筋から肩へと滑るように動くと、重くなった浴衣が私からはがれ落ちるようにゆっくりと湯の底に沈んでいった。
枷を外されたように軽くなった私の腕は、迷うことなく愛しい人の首に絡みつく。
キスを繰り返せば繰り返すほどに、絡み合うふたり。
ふいに泰兄が私を抱き上げた。
そして湯からあがると、部屋に向かう。
そうあのベッドへ…


