「元気がないな」
頬に触れる冷たい指の感触に、ハッと顔を上げた。
「何かあったのか」とベッドから彼が身体を起こす。
泰兄の何でも見透かしてしまいそうな瞳が心苦しくて、席を立った。
「ううん、何でもないわ。それより…」
私は窓際に歩み寄ると、カーテンを大きく開けた。
「いい天気ね。外に出てみる?」
話をそらそうとする私の問いに答えず、泰兄は代わりに「勇作のことで何かあったのか」と訊いてきた。
「…違うわ」
「嘘つけ、顔に書いてある」
「泰兄のほうが嘘つき。書いてあるわけないじゃない」
あはは、と笑って振り向くも彼の顔は真剣そのものだった。
ごまかしきれそうにない、そう思った私は覚悟を決めた。
「お兄ちゃんにあなたのことを話したの。圭条会の人だってことも」
「それで?」
「怒ってたわ、ものすごく」
肩をすくめて笑う私に向ける彼の表情は、相変わらず厳しいものだった。
「でもいいの。後悔してない。だってどんなにケンカしたって、離れ離れになったって、お兄ちゃんと私は…」
不覚にも声が詰まってしまった。
何かを察したように、彼の瞳が哀しく光る。
「…兄妹であることに変わりはないから」
私たちは本当の兄妹じゃない、それだけはどうしても打ち明けられなかった。
血の繋がりなんて、関係ない。
生まれてからずっとお兄ちゃんが私を守り、慈しんでくれた、それは間違いないのだから。
しばらくの静寂の後。
うつむいていた私の耳に、シーツの擦れる音がした。
パタン、パタンとスリッパの音。
すぐに私の視界に影ができた。
私の髪を指ですくって耳にかけてくれる泰兄。
「勇作が…おまえに何かしたのか」
えっ、と驚いた私の目に、やるせなさそうな彼の顔。
「どうしてそんなこと訊くの?」
「いや…」と珍しく彼の瞳が揺れる。
泰兄、あなたもしかして私たちのこと知ってるの?
まさかね…
「俺はおまえをもう離さない。おまえが嫌だと言ってもだ」
「…泰兄」
「言ったはずだ、そばにいろってな」
ああ、私にはこの人がいる。
愛してやまない人が目の前にいる。
そして愛してくれる。
お兄ちゃんの日だまりのような愛から飛び出して、私はあなたの嵐のような愛の中に身を投じたのよ。
そばにいるわ、どんなことが私たちを待ち受けていようとも。
「さぁ着替えて。少し外の風に当たったほうがいいわ」
私がシャツに手を伸ばすと、彼は「いい、自分でする」と背中を向けた。


