「おい」
ふいに下から低い声がして、私は飛び上がった。
「何やってんだ」
声の主はあの泰兄だった。
彼の持つペンライトの光が、まるでホタルのように私にまとわりつく。
「何やってんだって訊いてるんだよ」
彼の場所で、彼の秘密をこっそり見てしまった…
そんな罪悪感が湧き上がってくる。
きっと泰兄にも怒られる。
「降りてこいよ」
「…ない…」
「あ?」
「降りられない」
はぁ…そんなため息が聞こえた。
私はますます幹にしがみつく。
どうしよう、怒られちゃう。
もう何もかもが怖い。
「来いよ」
その声に恐る恐る下を見ると、ペンライトをズボンのポケットに突っ込み、両手を広げた彼がいた。
「そこから飛べ。受け止めてやるから」
「や…できないもん、そんなこと」
「いいからやれよ。そんなに高くない」
「いや」
「絶対大丈夫だって」
「いや」
チッと彼は舌打ちをした。
「じゃあ、天宮を呼んでくるしかねぇな」
「いやっ、怒られちゃう」
「ったく、どうすんだよ」
「……」
「なぁ、早く決めろよ。みんな腹減ってんのにおまえを探してんだ」
「ちゃんと受け止めてくれる?」
「ああ、約束する」
「…じゃ、飛び降りる」
「よし来い」
再び彼は両手を広げた。
でももし地面に落ちたらどうしよう、けがしちゃう。
痛いの、やだな…
「早く来いよ、天宮たちに見つかるぞ」
「……でも」
「いちにのさん、で飛べ。いいか、いち…にの…さんっ…」
泰兄のその声に背を押されるように、私は目をつぶったまま私は太い幹から身体を離した。
びゅうっ…と耳元で風が短く鳴った。


