「頭がどうにかなりそうなくらい、悩んで苦しんだわ!」
「だったらなぜ!」
「それでも…!」
…それでも?
真琴の言わんとすることはわかっていた。
その続きを聞くことが、たまらなく怖い。
「それでも、私は泰兄を愛してるって気付いたの」
「…真琴」
「愛してるの」
念を押すように、彼女はもう一度言った。
「それはもう…身も心も泰輔兄さんに捧げたということになるのかな」
「そんな言い方はやめて」
「だったらどう言えばいいんだ!?実際にそうだろう?おまえはあんなに憎んだ組織にいる男とデキてる。危険なほど募る想いとでも言うのか?そんなのただの幻覚だ!」
「だからやめて、そんな言い方!」
高い声で彼女は反論する。
俺は唇をなめると、静かだが吐いて捨てるようにこう言った。
「父さんと母さんが、今のおまえを見たらどう思うかな」
エプロンの裾を強く握りしめたままの真琴。
しばらくして何かを呟くように言った。
「…じゃないくせに…」
「何だって?」
「本当のお兄ちゃんじゃないくせに…!私が誰を愛そうと勝手じゃない!ほっといてよ!」
頭をガンと殴られたような衝撃が俺を襲う。
「おまえ、それをどこで…?」
そう聞き返すのがやっとの俺。
そんな様子を見て、我に返ったように真琴は口を覆った。
「ご…ごめんなさい」
「誰に聞いたんだ」
一息つくと、彼女は少し落ち着いた口調で言った。
「戸籍謄本…」
「…戸籍?」
「千春さんが言ってたの。私たち兄妹は、周りからは恋人にしか見えないって。ほら、私たち全然似てないでしょ?だから見た目だけのことを言ってるのかと思ったの。でも気になって調べたら…」
「それで、俺が赤の他人だってわかったわけか」
彼女は両手で顔を覆うと「ごめんなさい」と何度も謝った。
「言わないでおこうと思ってたの。たとえ血はつながってなくても、やっぱりお兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだもの。なのに、ついカッとなって…」
俺たちの間にはとてつもなく重い空気が流れていたのに、なぜだろう、急に笑いが込みあげてきた。
「…お兄ちゃん?」
この状況で声を出して笑う俺が不気味だったのか、真琴が顔を上げた。


