今は何時くらいだろう。
いつまでもこうやって天井を行き交う光を見ながら、悶々としていたって仕方がない。
確かめよう…
俺はやっとのことでベッドから身体を起こすと、昨日の朝から着たままのしわくちゃなワイシャツに上着を羽織った。
そしてまだ明けない真っ暗な冷たい空気の中を、踏みしめるように歩いた。
真琴のアパートの下まで来ると、俺は2階の部屋を見上げた。
キッチンの窓から明かりが漏れている。
起きてるのか…
俺は無意識のうちに、足音を立てないように古い階段を上っていた。
リズミカルな包丁の音が、外まで聞こえてくる。
卵焼きでも作ったのだろうか、換気扇からは甘い匂いが漂ってくる。
懐かしさのあまり、目を閉じた。
数ヶ月前まで、俺たち兄妹はこの中で共に暮らしていた。
あの頃はふとんの中にいても味噌汁やご飯の炊ける匂いがして、次第に夢から引き戻される感覚があった。
真琴が水道を使う音や、冷蔵庫を開け閉めする音も聞こえてきて、ああ、もうそろそろ起きなきゃ…なんて思ったりしていた。
そうこうしているうちに「お兄ちゃん、早く起きなさい」ってふとんをはがしにくる妹がいた。
今はただただ懐かしい。
塗装のはげたドアをノックすると包丁の音が止み、中で警戒する気配がした。
「真琴、俺だよ」
そう言うと、鍵を開ける音がして、真琴が顔を出した。
「お兄ちゃん、こんな時間にどうしたの。とにかく入って、寒かったでしょ」
そう言ってドアを大きく開けた。
玄関に足を踏み入れると、やはりこの感覚も懐かしい。
小さなダイニングテーブルや椅子の位置も変わっていない。
ただ違うのは、開け放たれた、元・俺の部屋。
がらんどうのまま、何も置かれてはいない。


