圭条会と須賀一家のトラブルの件を今ここで訊くべきかどうか、俺は悩んだ。
森には、明日ここで一緒に話をしようと言っただけに、フライングしていいものだろうか。
でも気になって仕方ない。
真琴の誕生日に、ここで何があったのか。
そのことが、あいつに愛する男と別れる決意をさせたのではないか。
だとしたら…
だとしたら、もしや泰輔兄さんは…
「あの…」
口を開いたと同時に、頭上でドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
俺に尋問されると思っていたのだろう、客の来店でマスターの顔がホッとしたように見えた。
彼は何かを隠している、それがわかっただけでも今夜はよしとしよう。
俺はYesterdayを出た。
グラスビールを半分ほど飲んだだけなのに、身体を駆け巡る血がとてつもなく熱い。
そこに森から電話があった。
『あのさ、前にYesterdayでおまえと飲んだ時、そこに身なりのいい若い男が隣にいただろ。おまえの知り合いだって言ってなかったっけ?』
「ああ、施設の先輩だよ」
『しかもおまえ、あの人は高級クラブのオーナーって言ってたよな』
「それが何か?」
相変わらず回りくどいやつだ。
『そのクラブ、AGEHAって言うんじゃないのか?』
「ああ、そうだよ」
電話の向こうで、森の息を呑む気配がした。
『そのAGEHAというクラブ、圭条会系列の橘組の大きな資金源になってる』
「なんだって!?」
あまりの声の大きさに、道行く人が俺を不審な目で見る。
「本当か?」
『ああ、間違いない。県警担当の俺の後輩が言ってたんだ』
じゃあやはり泰輔兄さんは…
何かの間違いであってほしい。
浮かんだ考えをかき消すように、頭をグシャグシャとかく。
『泰兄とは生きてる世界が違うってわかったの』
真琴のあの時の言葉…
だから別れたのか?
あの日、泰輔兄さんが圭条会の人間だと知ってしまったから?
相原泰輔。
やはりあの人は指定暴力団、圭条会の組員…
さっきまであれほど熱かった身体に、今は冷や汗が流れている。
『おーい、勇作。聞いてんのか』
森の話なんてどうでもよかった。
電話を一方的に切ると、俺は足早に帰途についた。


