「それがさ、そのじいさん。当たりだったんだよ!」
「当たり?」
「今年の夏に真琴ちゃんのいるバーに一度だけ行ったことがあるんだとよ。えっと、店の名前なんだっけ」
「Yesterday」
「ああ、そうそう、それ。すっかり抜けちゃってるな。俺ももう歳かな」
「それで?」苛立った俺は先を促す。
「あのバーで、圭条会と須賀一家の連中がもめてたらしいんだ」
「なんだって?」
「あの界隈は圭条会の傘下組織が仕切ってる。えっと橘組だったかな。そこに須賀がちょっかいをかけて一悶着あったらしい。そのじいさんもYesterdayにいて実際に須賀一家の男が暴れてるのを見てる。滅多にこっちに出てこないじいさんだから、組織の手も回らなかったんだろうな」
「それ、いつの話?」
「ええっと…確か」
分厚い手帳をパラパラと得意げにめくりながら、森は言った。
「え?いつだって?」俺は訊き返した。
「だからぁ」
森の口にした日付に、俺は耳を疑った。
なぜならその日は…
その日は真琴の誕生日だったから。
そしてあいつが泰輔兄さんに別れを告げた日だったから。
「今夜さ、なんだっけ真琴ちゃんのバー。えっと、Yesterdayね、Yesterday。そこに行って詳しく訊いてみないか、その日のこと」
偶然か?
Yesterdayで俺たちの敵である2つの対立する組織がもめ事を起こし、その日に真琴はあれほど好きで仕方なかった男と別れた。
『泰兄とは住む世界が違うってわかったの』
あの言葉が、今になって妙にひっかかる。
「なぁ勇作、聞いてんのか?」
「え?ああ、聞いてるよ」
「今夜どう?」
「今日はちょっと…明日じゃだめかな」
「明日かぁ…まぁもうちょっと材料集めてから、店側に核心をついてもいいかな。言い逃れできないような何かをつかんでな。よし、じゃあ明日な」
自信に満ちた森の背中を見送りながら、俺の中でバラバラのパズルのピースが、カチリ、カチリと不気味な音をたてて、一つの真実を描き出していくようだった。
社を出た俺は時刻を確認した。
まだ真琴はシトラスのバイトの時間だ。
右手を挙げタクシーに乗り込むと、俺は行き先を告げた。


