ふたり。-Triangle Love の果てに

~片桐勇作~


俺の勤務先の中央新聞社内では、ある噂が流れていた。


須賀一家と圭条会の間で、拳銃を使用したトラブルがあったというものだった。


なのに警察からの発表もなければ、発砲現場や負傷者の有無と言った情報は皆無だった。


これは何らかの取引が県警と組織の間で交わされたのではないか、そうにらんだ中央新聞社。


どうにかして事の真相を突き止めたい社としては、まずは現場がどこか特定する必要があった。


普段はそんな重大なスクープになりそうなネタとは無縁の俺も、助っ人として情報収集にかり出された。


誰かが負傷したのならば、そう思い救急車の往来なども調べてみたが、相手もそれを警戒してか119番通報した様子はなかった。


「ここ数日の間に、発砲音のようなものを聞いたことはありませんか」


毎日何百回と同じ質問をしながら、足を棒にしてかけずりまわる。


範囲を絞り込めるほどの情報がない中、ただひたすら聞き込みに回るしかなかった。


気の遠くなるような取材。


だが俺たちは初めから大きな壁にぶち当たっていた。


たとえ付近で発砲事件があったとしても、すでに組織の手がまわり、証言してくれる人などいない。


報復が怖いからだ。


つくづく卑劣な奴らだと思う。


俺はこの疑惑を調査するのには抵抗があった。


なぜなら、圭条会と須賀一家が関わっているからだ。


俺たち家族をどん底にまで突き落としたあいつらが、また諍いを起こしている。


勝手に殺し合って消えてしまえばいいのに、そんなことを平気で考える。


それほど、俺はこの2つの組織が許せない。


仕方なくやらねばならない仕事だが、とことん糾弾してやつらを壊滅させることができたら…その思いだけで痛む足を引きずりながら情報収集している。



ある日、へとへとになって社に戻ると、同期の森が待ち構えていたかのように足早に近寄ってきた。


そして辺りを気にしながら、小声で言う。


「うちの班のやつが、今回の件でいろいろ聞き回って拾ってきた情報なんだけどさ」


少し自慢げだ。


「月に1回のペースで田舎から本通りまで飲みに出てくるじいさんを偶然つかまえてさ。なんせ、嫁さんがうるさいからなかなかこっちには出て来れないらしいんだ」


「それで?もったいぶらずに先を言ってくれよ。疲れてるんだ」


デスクにドサリと重たい鞄を置くと、俺は面倒くさそうに言った。


この森という男は学生時代からいつもこうだ。


人が仕入れた情報はあっという間にかっさらっていくくせに、自分の懐にあるものは出し惜しみして相手の反応を楽しむ。