毎日、私は彼の手の甲をさすりながら、何度も彼の名を呼び続けた。
「少し休まれたほうが。自分が代わりについていますから」
そんなせっかく勝平さんの申し出を断ってまでも、私は泰兄から片時も離れたくなかった。
「泰兄、早く目を開けて。私はここで待ってるのよ。どこにも行かないわ」
そんな様子に、勝平さんも黙って見守っていてくれた。
何日目かの明け方だった。
「……う……」
うめき声と共に、握っていた彼の指がピクッピクッと痙攣するように動いた。
ウトウトしていた私は、咄嗟に彼の手を両手で包み込み必死で彼の名を呼んだ。
「泰兄!泰兄!目を開けて!」
「おっ俺、先生呼んできます」
勝平さんも慌てて、転がるようにして部屋を出て行く。
「泰兄!戻ってきて!」
瞼が微かに揺れて、長めのまつげがゆっくりと持ち上がった。
「泰兄!」
ああ…!神さま…!
心から感謝した。
彼が目を覚ましたのだから。
長い長い眠りから、やっと…
「…うっ…」
「泰兄!」
「…マ…?」
目だけを動かして、部屋を一通り見る彼。
どこにいるのか、ようやく状況が飲み込めた様子だった。
「今、勝平さんが先生を呼びに行ってくれてるの」
やっと彼が目覚めたというのに嬉しさで涙が溢れ、その顔がぼやけてしまう。
泰兄。
本当によかった…
「苦しくはない?」
彼の手に自分の手を重ねた。
でもすぐに彼の口から出た言葉に一瞬耳を疑った。
「…か…帰…れ」
途切れ途切れの声に、私は訊き返した。
「何て…?」
彼は私の手を振り払うと震える手で酸素マスクを引きはがし、もう一度言った。
「帰れ…!」
「泰…」
「帰れ、と言ってる…んだ」
絞り出すようなその声。


