「お願いしますね、泰輔のこと」
「私にできることなんて…」
「そばにいてくださるだけで、それだけでいいんです」
そばにいるだけで…胸が熱くなる。
「泰輔は私たち夫婦にとっては息子同然。あなたにしてみたら歳も違わない男のことを息子だなんておかしなことに思うでしょうけど、この世界では血の繋がりよりも強い結びつきが私たちの間にはあるの」
そして急に彼女は床に膝をついた。
「ましてや、夫をかばって撃たれたともなれば、どうお詫びしていいものか」
手をつき、頭を下げる。
「やめてください」
土下座する彼女の綺麗なうなじが、あらわになる。
「本当に申し訳ございません」
どんなに顔をあげてください、と言っても、彼女は長い間ずっと手をつき続けていた。
ルリさんが病室を出る前に、私の手を取って言った。
「泰輔は意識がない中で、マコ、マコと何度も繰り返していました。でもその意味がようやくわかったわ。真琴さん、あなたのことだったのね」
「マコ?彼がそう言ってたんですか?」
なつみ園の門の前でのことに思いを馳せる。
『マコって呼ぶからさ、それでいいだろ』って確かにあの時彼は言ったのに。
なのに一度もそう呼んでくれないまま、離ればなれになって…
今、彼は私を呼んでる。
たったひとりで、真っ暗な世界を彷徨いながら…
マコって、そう呼んでくれている。
私は彼の手を強く握りしめた。
「泰兄、私はここにいるわ。だから目を開けて。どうしても伝えたいことがあるの、お願いよ」
ねぇ、泰兄。
悲しみをひとりで抱えて、もう苦しまないで。
あなたが誰よりも愛深き人だということも
それゆえに、ずっと自分を責め続けていることも…
わかってるから…
そんなあなたを、今まで以上に愛してる。
あなたの心の奥に閉ざされた涙さえも、私は愛してるから。
だからひとりで苦しまないで。
あなたの瞳の奥から、隠された愛を私が探し出してあげる。
他の誰でもない、この私が…


