俺はすぐにキヨさんの店に向かった。
店の2階が彼女の住まいにもなっている。
張り出した店の屋根から、雨水が音をたてて勢いよく落ちてくる。
「おい!ばあさん、帰ってんのかよ!」
俺は持っていた合鍵を使って、ためらうことなく中に入った。
「おい!いるのか!?」
階段をあがり、2階をのぞく。
整頓された小さな和室。
だがそこにキヨさんはいなかった。
どこに行ったんだよ。
帰る場所なんて、ここぐらいしかないだろうに。
店を飛び出した俺は、傘もささずにあちこち探し回った。
…もしかして他の病院か?
俺は近くの病院にしらみつぶしに電話をかけ、「高橋喜代子」という老女が来ていないか訊いてもみた。
でも全てハズレだった。
『今までありがとね、楽しかった』
その言葉が耳から離れない。
キヨさんはあの時、もう病院を出る覚悟をしていたに違いない。
なんで言わなかったんだよ。
「もう来てくれるな」って。
「ヤクザなんかが来たら、みんな嫌がるから」って!
今さらそんなことで傷付かねぇよ!
バカ野郎!
俺は暗くなっても、彼女を捜し回った。
絶対に見つけてやる、絶対に…!
だが結局、彼女を見つけ出せずに、再び店の前に呆然と立っていた。
濡れた服が身体に張り付いて重い。
1階の店舗は案の定、真っ暗だった。
…ったく、どこ行ったんだよ…
空から落ちてくる雨を見上げた時だ。
2階のカーテンの隙間から光が漏れている。
キヨさんっ!
急いで引き戸に手をかけるが、鍵がかかっている。
「鍵…合鍵…くそっ、どこだ!」
やっとのことで俺は2階へと駆け上がった。


