~相原泰輔~
暗闇の中の大きなスクリーン。
そこに映し出される、まだあどけなさが残る俺自身。
ああ、夢を見てるんだ。
ずっと…ずっと昔の…
もう二度とは戻れない過去の…
あれは橘組が立ち上がってまもなくのこと。
当時は組といっても鶴崎組の傘下組織の一つにすぎず、圭条会の中でもそれなりの扱いだった。
ある日、鶴崎組長からある土地の買い上げを命じられた。
それを担当することになったのが俺をはじめ、数人の若手組員だった。
そこには小さな小料理屋やスナックが所狭しと軒を連ね、細々と営業を続けていた商店街。
その一帯を圭条会のフロント企業が買い上げ、宅地にするといった計画だった。
俺がまず話をつけに行ったのは定食屋や居酒屋、数軒。
店主が高齢なこともあり、あっさりと立ち退きを承諾した。
「かるいもんだ」と気を良くした俺が次に足を運んだのは、しなびた小料理屋だった。
その時にはこの店が俺の人生を変えてしまうとは、思ってもみなかった。
小さな店の数人しか座れないカウンターの向こうで、70近いばあさんが一人できりもりしていた。
脅しのつもりで圭条会の人間だと告げるも、意外にも「あら、そう。で、何の用?」と平然と言った。
近所の店から噂を聞いていて、俺が来た理由くらいはわかってるはずなのに、とぼけた顔で「おすすめ定食にするかい?」と訊いてきた。
「あのさ、ばあさん。俺は飯を食いに来たわけじゃ…」
「あんたっ、失礼だね!女性に向かって、ばあさんだなんて!」
何言ってんだよ、ばあさんは「ばあさん」だろ。
「じゃあ何て呼べばいいんだよ」
「お客さんはあたしをキヨさんって呼ぶよ」
はいはい、わかったよ。
「えっと、キヨさん。話があるんだけど、わかるよね?周りの店、みーんなたたんじゃうってさ」
カウンターに寄りかかって、俺は偉そうに言った。
「今日はね、タケノコの天ぷらなんだよ。タケノコ食べられるかい?たまに蕁麻疹が出るって言う人がいるけど気の毒だよね。こーんなにおいしいものが食べられないなんてさ」
聞いてねぇよ、このばあさん…
苛立った俺はカウンターを数回叩いた。
「あのさぁ!」
「話は食べてからにしてくれないかい」
衣をつけたタケノコを菜箸でつまんだまま、ばあさんは俺をにらみつけた。
それが妙に迫力があって、口をつぐむ俺。
出された定食は、春野菜の天ぷら、菜の花のおひたし、ご飯、味噌汁、漬け物。
それぞれが器にきれいに盛られていた。
暗闇の中の大きなスクリーン。
そこに映し出される、まだあどけなさが残る俺自身。
ああ、夢を見てるんだ。
ずっと…ずっと昔の…
もう二度とは戻れない過去の…
あれは橘組が立ち上がってまもなくのこと。
当時は組といっても鶴崎組の傘下組織の一つにすぎず、圭条会の中でもそれなりの扱いだった。
ある日、鶴崎組長からある土地の買い上げを命じられた。
それを担当することになったのが俺をはじめ、数人の若手組員だった。
そこには小さな小料理屋やスナックが所狭しと軒を連ね、細々と営業を続けていた商店街。
その一帯を圭条会のフロント企業が買い上げ、宅地にするといった計画だった。
俺がまず話をつけに行ったのは定食屋や居酒屋、数軒。
店主が高齢なこともあり、あっさりと立ち退きを承諾した。
「かるいもんだ」と気を良くした俺が次に足を運んだのは、しなびた小料理屋だった。
その時にはこの店が俺の人生を変えてしまうとは、思ってもみなかった。
小さな店の数人しか座れないカウンターの向こうで、70近いばあさんが一人できりもりしていた。
脅しのつもりで圭条会の人間だと告げるも、意外にも「あら、そう。で、何の用?」と平然と言った。
近所の店から噂を聞いていて、俺が来た理由くらいはわかってるはずなのに、とぼけた顔で「おすすめ定食にするかい?」と訊いてきた。
「あのさ、ばあさん。俺は飯を食いに来たわけじゃ…」
「あんたっ、失礼だね!女性に向かって、ばあさんだなんて!」
何言ってんだよ、ばあさんは「ばあさん」だろ。
「じゃあ何て呼べばいいんだよ」
「お客さんはあたしをキヨさんって呼ぶよ」
はいはい、わかったよ。
「えっと、キヨさん。話があるんだけど、わかるよね?周りの店、みーんなたたんじゃうってさ」
カウンターに寄りかかって、俺は偉そうに言った。
「今日はね、タケノコの天ぷらなんだよ。タケノコ食べられるかい?たまに蕁麻疹が出るって言う人がいるけど気の毒だよね。こーんなにおいしいものが食べられないなんてさ」
聞いてねぇよ、このばあさん…
苛立った俺はカウンターを数回叩いた。
「あのさぁ!」
「話は食べてからにしてくれないかい」
衣をつけたタケノコを菜箸でつまんだまま、ばあさんは俺をにらみつけた。
それが妙に迫力があって、口をつぐむ俺。
出された定食は、春野菜の天ぷら、菜の花のおひたし、ご飯、味噌汁、漬け物。
それぞれが器にきれいに盛られていた。


