「そうだな、どんなことをしても止めるべきだったな。だけど、当時のあいつはなんだか活き活きしてた。血縁関係がなくとも、初めて家族と呼べる人間ができて。信頼され、そして自分も仲間を信じて…そんなあいつを見てると、強く言えなかった」
だめだな、俺は…と先生は頭をかいた。
「止めてたら、こんなことにはならなかったはずだもんな」
しばらくの重い重い沈黙。
暗くて深い海の底に、私も先生も沈んでゆきそうなほどの…
「真琴、あいつのところに行ってやってくれないか」
意を決したかのような先生の言葉。
でも私は首を横に振った。
迷いを振り払うように、何度も何度も。
「できません」
「意識がない中で、おまえの名前を呼んでいる」
心に張った厚い氷にヒビが入った瞬間だった。
小さなヒビがたちまち音を立てて、大きな亀裂へ。
そこから溢れ出ようとする、想い。
「ずっとおまえを呼んでいる」
「やめてください!彼は私たち兄妹から両親を奪った組織の人間です。それに彼は人を殺してまで組長代理にまでなったって言うじゃありませんか!そんな人のことなんて…!」
必死にその割れ目を修復しようとする私。
凍らせたはずの想いを、元通り心の奥深くに戻すために。
「人を殺した?なんだそれ?」
先生は笑って、頬杖をつく。
私は須賀一家の男達がそう言っていたこと、泰兄自身も否定しなかったことを話した。
「ばっか野郎だな、あいつは。どこまでかっこつけたら気がすむのかねぇ。それでおまえを失うことになったんだから、ほんっとマヌケだな、泰輔は」
先生はのけぞると、手を叩いてまた笑う。
「どういう意味ですか」
先生、なんで笑ってるの?
かっこつけて…って何のこと?
「いいか、真琴」
あのいい加減っぽく見える笑みが、みるみるうちに消えたかと思うと、先生は見たこともないような真剣な顔で身を乗り出してきた。
「俺がこれから話すことを黙って聞けよ。その上で自分の気持ちに正直になれ。じゃないと、誤解されたままでおまえをあきらめようとした泰輔の気持ちも、それを今から台無しにしようとする俺の行為も、全くの無意味になるからな」
そう前置きをして、先生は泰兄の過去を話し始めた。
人を殺した、そう彼が私に言った本当の理由を…


