鶴崎組長とは日本料亭の一室で、今後の圭条会の運営や最近の須賀一家の動向について話をしていた。
一段落ついたところで、鶴崎組長は俺の顔をまじまじと見ながら言った。
「泰輔、おまえはよくやってくれてるよ。直人がおまえを代行に指名しただけのことはある」
「まだまだ未熟者で、鶴崎組長にはいろいろとご迷惑ばかりおかけして」
「なーに、うちに転がり込んできた時に比べれば、見違えるほどいい男になった」
「恐縮です」
組長はそれを機に、俺の若い頃の失敗談を肴に酒を飲んだ。
「家内がいつでも遊びに来いと言ってたぞ。出世した途端、泰輔は寄りつかなくなったとカンカンだ」
「参りましたね、ルリ姐さんを怒らせると大変なことになりますからね。近々ご挨拶に伺います」
「そうしてくれ。ところで、健吾はおまえのところによく顔を出すのか?」
「たまにですが、閉店後のAGEHAにいらっしゃいます」
「元気か?」
「はい、とても」
そうか、と頷いた組長の顔が安堵した父親そのもののだった。
「直人が組を立ち上げた時、おまえを引き留めておくべきだったと俺もルリも後悔してな。健吾が唯一心を許していたのはおまえだけだったからな」
「俺が世話役を続けていたなら、今の健吾さんはなかったでしょう。余計なことばかり吹き込む人間ですからね」
がはは、と豪快に笑う組長は息子である健吾さんのことを誇らしげに思っているようだった。
千鳥足の鶴崎組長に肩を貸しながら、俺たちは料亭の駐車場までやって来た。
そこで鶴崎組の若い組員が俺と代わって組長を車に案内する。
「泰輔、次は絶対に家に来いよ!ルリも待ってるからな!」
「必ず」
敷き詰められた砂利に足を取られ、ふらふらとよろけながらレクサスに向かう組長。
俺はその背中に頭を下げた。
その時だった。
目の端に捉えた車に違和感を感じたのは。
とっさにそちらに目をやる。
少し開いた助手席の窓に、妖しく光るもの。
本能的にヤバいと思った。
明らかに鶴崎組長を狙った銃口。
「組長…!!」
俺が駆け出すと同時に渇いた破裂音が辺りに響いた。
背中に激痛が走る。
間髪入れずに腹にも…
それはあまりにも熱く俺の背中を、腹を燃え尽くすかのように広がってゆく。


