「どうなったんですか、その亮二さんと相手の女性は」
寂しげな笑みを浮かべた浩介さん。
「幼なじみで互いに想い合ってたのに、事情があって離れ離れになってさ。再会した時にはもう彼女のほうが結婚してたんだよ。しかも…」
「しかも?」
「刑事と」
なんて最悪な再会だろう。
そんなことなら再び巡り会わなければよかっただろうに…
暴力団幹部と、刑事の妻…
俺はいつのまにか自分とマコのことを重ね合わせていた。
両親を殺された女と、その組織の中核にいる俺。
「それは…キツイですね」
それがやっと出た俺の感想。
はぁーと大きなため息をつくと、彼は立ち上がった。
「でもさ、幸せだったと思うぜ、亮二さん。彼女と会うときの顔といったら…」
そうだろうか。
叶わない想いを背負い続けて、幸せなんてあり得るのか?
忘れてしまえるものなら、忘れてしまいたかっただろうに。
でないと、辛いだけだ。
俺の顔を見て、何を考えているのかわかったのだろう、浩介さんは笑った。
「んな顔すんなって!」と背中を勢いよく何度も叩いてきた。
「男ってのはなぁ、惚れた女がいるだけで命かけて仕事ができるもんなんだよ。たとえそれが叶わなくってもな!」
辛くても価値があると?
今の俺にはそんな悟ったような解釈は到底できそうにないな。
そんな俺を励ますかのように大げさに笑った浩介さんは「今夜飲みに行くか」と誘ってくれた。
「ああ、すみません。この後鶴崎組長との会食が入ってて。次は必ず」
申し訳なさそうな俺に彼は首を振りながら、「大したやつだよ、おまえは」と感心したように言った。
「直人がさ、おまえをパチンコ店から拾って来た時に言ってた。亮二さんみたいなやつだって」
「俺のことを?」
そういえば、初めて直人さんに会った時「ある人に似てる」って言われた記憶がある。
それがその「亮二さん」だというのか…
「人の上に立つ素質はあるってわけだ。直人もちゃんと見抜いてやがる。おまえに任せておけば大丈夫だってな。今頃ムショで安心してお務めしてるだろうよ。ま、女に関してはどうだかわかんねぇけどな」
なんと返していいものかわからず、俺はぬるいオレンジジュースをもう一口含む。
「鶴崎親分に粗相のないようにな」
それだけ言うと、彼は作業着のポケットに両手を突っ込み調子外れの口笛を吹きながらガレージを出て行った。
亮二さん、か…
直人さんと浩介さんにとって、永遠の憧れの人。
その人に俺が似てる?
この俺が?
「迷惑な話だ」
紙コップを空にすると、俺はぐしゃりとそれを握りつぶした。


