「本当にあたしとのことが理由だったのかな」
「どうしてそう思われるんですか?」
「それは…」
うつむき、指をいじる千春さん。
以前のようなはつらつさは、今は見る影もない。
「話していただけませんか」
食い下がる私に大きなため息をついた彼女は、やっとサーバーを手に取り、色の濃い紅茶をカップに注いだ。
そのゆっくりとした動作を、私はじっと見つめていた。
「片桐くんには好きな人がいるのよ。ずっと前からね。あたしなんて太刀打ちできないくらいの強敵」
「強敵?そんなはずありません。兄は今まで浮いた話ひとつすらなかったんです」
「ひたすら隠してるのよ、彼は。明るみになれば相手も傷付くことになるから。だから彼はその人を守るためにずっと気持ちを圧し殺してる」
「その相手をご存じなんですか」
明らかに目が泳いだ千春さん。
知ってるに違いない。
だけど返事は「ううん、知らない」だった。
私は目を閉じた。
なんてことだろう…お兄ちゃんにそんな人がいたなんて…
「でもね、これだけは言える。片桐くんにはその人のことしか見えてない。私を一生懸命好きになろうとしてくれてたけどね、無理だったみたい」
そう言った千春さんの紅茶のカップに、涙が輪を描いた。
だからそれ以上、何も訊けなかった。
千春さんは間違いなくお兄ちゃんのことを想っていてくれた。
なのに、お兄ちゃんは…
お兄ちゃんは「別の人」が好きだという。
どんなに目の前の女性は傷付いただろう。
一緒にいるのに、相手の心が別の誰かをみてるなんて…
恋って…
恋って哀しい。


