~片桐真琴~
毎日、判を押したような日々が繰り返される。
午前4時過ぎにあのアパートに戻り、昼まで眠る。
そしてシトラスのバイト、Yesterdayのバーテンダーとしての仕事をこなし再び家に帰る。
そんな日々。
なんの抑揚も、なんの刺激もない毎日。
いつしか、街路樹も鮮やかな色をまといはじめた。
冷たくなった風に、誰かのぬくもりがつい恋しくなる。
休日、久しぶりにひとりで昼間の本通りを歩いてみた。
別に目的なんてなかったけれど、ただ人混みにこの身を置いておきたかった。
まだ彼を思い出さない日はない。
あの冷めた目も、低い声も、広くてたくましい胸も
優しくて、かと思えば激しく私を包み込む唇も…
まるで昨日のことのように思い出してしまう。
その度に、胸にすきま風が吹き抜ける。
傷口にその冷たい風はしみる。
どんなにたぐりよせても、帰れないあの日。
戻れない、ふたり。
でももう泣かない。
気の済むまで充分に泣いたから。
私には前を向いて歩くことしかできないのだから。
消していこう、焦がれる想いをひとつずつ。
溢れる想いを、ひとつずつ…
ショーウィンドウを何気なくのぞいていた時だった。
その店から出てきた女性に、思わず口元がほころぶ。
「お久しぶりです、千春さん」
「…真琴ちゃん」
私とは違って、彼女はこの再会を気まずく思っているようだった。
「兄は元気にしていますか?ここ最近ちっとも連絡くれないし、お店にも顔を出してくれないものだから、ぶっ倒れてるんじゃないかと」
冗談めかしてそう言ったことを、私はすぐに後悔した。
「ごめんなさい、片桐くんとはあたしも連絡取ってなくって」
「え…だって兄は…」
千春さんとの仲を深めるために、私と別々に暮らそうって…
今度は私が気まずい顔をしてしまう。
「ね、真琴ちゃん。そこにかわいいカフェがあってね。少しお話できない?」


