夕方、片付けをする気にもなれずにベッドに寝そべってテレビを見ていると、突然玄関チャイムが鳴った。
聞き慣れない電子音のせいで、思わず飛び起きる。
「あたし、千春よ」
インターホン越しの声に、俺は部屋を見渡した。
「ちょっ、ちょっと待ってくれる?」
俺はとりあえず散らかった床に彼女ひとりが座れるスペースを作ってから玄関を開けた。
「どうぞ入って。まだ散らかってるけど」
千春ちゃんは靴を脱ぐと、ぐるりと部屋を見渡した。
「いいじゃない」
俺はかろうじてあけたスペースに彼女を案内すると、真新しいケトルに水を入れて火にかけた。
「あたしがやるよ」
「いいんだよ、お客さんなんだから座ってて」
2つだけあるカップにインスタントコーヒーを淹れテーブルに並べると、俺はベッドに腰かけた。
「ほんっとにごめん、こんなに散らかったままで」
「ううん、手伝いに来たんだからやりがいあるわ」
「でも仕事は?」
「若い子にまかせてきちゃった」
えへへ、と笑うと千春ちゃんはカップに手を伸ばした。
彼女のおかげで1時間ほどで見違えるほど部屋はきれいになった。
「ありがとう、助かったよ。あ、夕飯まだだよね、一緒にどう?」
「じゃあお言葉に甘えて」
俺はとりあえず小さな冷蔵庫の中をのぞくも、すぐに閉めて言った。
「外で食べようか」
「あたしが作るよって言いたいんだけど、料理はまるっきりダメで」
「いいんだよ」
「ね、何か買ってきてここで食べない?新生活スタートってことで」
俺たちは近くのコンビニで弁当と缶ビールを何本か買って部屋に戻ってきた。
酒が入っているのもあってか、他愛もない話に花が咲く。
千春ちゃんは美容院に来てくれた困ったお客さんの話を、面白おかしく話してくれた。
「その人ったらね、ショートヘアなのにロングヘアの切り抜き持ってきて、こんな髪型にしてくださいって言うんだから」
「それでどうしたの?」
「前髪だけその通りにしといた」
楽しかった。
突如できた胸のすきまを、彼女の笑顔が埋めてくれそうな気がしていた。
「あとね、カラーリングに来た人で、今日の空みたいな色にしてくださいって。でねその日は曇り空だったからグレーにしたら、おばあちゃんみたいになっちゃって」
お腹がよじれそうなくらい笑った。
彼女がこうしてそばにいてくれたら…
俺のこの悶々とした気持ちも晴れてゆくに違いない、そう思い始めていた。


