~片桐勇作~
真っ白な壁紙に、艶めくフローリング。
そこに次々と運び込まれる荷物。
「お兄ちゃん、ボーッとしてないで、その段ボールの中身出して」
「ああ、これね。はいはい」
今日は俺の引っ越し。
真琴も休み返上で手伝いに来てくれた。
俺が住む部屋なのに、真琴が業者にあれこれと指示を出し仕切っている。
朝9時から始まった搬入作業も、昼前には完全に終わった。
たたんだ段ボールをまとめながら、俺はキッチンを片付けてくれる妹を見た。
「食器とか少ないけど、とりあえず2セットずつあればいいわよね。これから千春さんと買い足していくんだろうし」
「え?うん、まぁそうだね」
どうかな、それ以上は増えない気もするけど。
泰輔兄さんとの一件から1週間。
真琴は仕事を休むことなく、俺の前でも気丈にふるまってきた。
だが、少し痩せたその笑顔が痛々しく俺の目には映る。
「今度ここに来たときは歯ブラシが2本になってたりして。抜き打ち検査しなくっちゃ」
今はこんなことを言いながら、俺をからかって肩をすくめる。
そんな平気を装う妹を残して先に家を出るのは忍びなかったが、これ以上一緒にいると、俺の方が気持ちを抑えられなくなりそうだった。
「お昼どうする?材料買ってくるから、何か作ろうか?多めに作って冷凍してたら、お兄ちゃんもひもじい思いをしなくていいものね」
「大丈夫だよ。真琴は早く帰って休めばいいよ。今日はせっかくの休みなんだから」
「あら、おっせかいだった?私がでしゃばらなくても、やってくれる人がいるものね」
「あのなぁ…」
「じゃあ、私は帰るわ。お邪魔しちゃ悪いしね。楽しんで」
そう言って、あっという間に部屋を出て行った。
なんだよ、楽しんでって…
ひとりきりの部屋。
ひとり分の家具と荷物。
今まで真琴とは朝にだけ顔を合わせるだけの生活だったけれど、部屋のあちこちに彼女を感じることができた。
無造作に置かれた淡いピンクのクッション、キッチンに置かれたマグカップや箸。
洗面台の歯ブラシやヘアスプレー。
それらが一切ない。
完全に俺だけのものしかない。
「まずいなぁ…俺、寂しいかも」
天井がやけに高い気がした。


