「いいよ、気を遣わなくっても。あんな豪華なブーケに比べたら、みすぼらしい限りだよ」
泰兄が私宛に贈ったあのバラと比較して、ケンちゃんは言った。
「そんなことないわ。本当に嬉しかったの」
「それならいいけどさ。で、話はそれだけ?」
「え…ええ。忙しいところをごめんなさい」
相変わらずね、と思わず笑ってしまう。
「じゃあ」と、背を向けかけたケンちゃん。
「ちょっと待って」
「何?」
「指が切れてるわ。血も出てる」
「ああ、これ?いつものことだし、別に痛くないから」
いつも濡れたままの手。
夏場でも荒れるのは仕方のないことなのかもしれない。
私はエプロンのポケットからあるものを取りだした。
捨ててしまおうと思っていたのに、なぜかこうやって持ち歩いている小瓶。
「使いかけで申し訳ないんだけど、これ塗ってみて。知り合いにもらったんだけど、すっごくよく効くの」
「何これ」
「ハンドクリームよ」
「いいの?高そうだけど」
「ええ。私はもう使わないから」
二度と使いたくないから…
差し出した瓶をつまむようにして受け取ったケンちゃんは「サンキュ」と蚊の鳴くような声でそう言った。
「真琴ちゃーん!できあがり!」
ちょうどその時、おじさんが私を呼んだ。


