「無理を言ってすまない。適当に何か出してくれればいい」
連れの女性のことで私が表情を強ばらせたのだと思った泰兄…
ううん、泰兄らしき人は気遣うようにそう言ってくれた。
違うの、別に気分を害したわけじゃないの。
私、あなたが泰兄なんじゃないかって…それで…
「いえ、大丈夫…です」
私は大きく息を吐き気持ちを落ち着かせると、女性のイメージをつかもうと彼女を見遣った。
綺麗な人。
陶器のような肌に、どこまでも透き通るような清潔感。
女優さんにも劣らないほどの美しさ。
そんな彼女が、指で弄んでいるネックレスが目に留まった。
鮮やかな赤い石がキャンドルの光に浮かび上がる。
ガーネット、かな。
私はバックバーを一通り見渡すと、ボトルを3本取りだした。
手早くシェーカーに入れて振る。
それに合わせてリズミカルに氷が跳ねた。
その様子を彼が見ているような気がして、私はシェーカーを伝わってくる氷の冷たさがわからなくなっていた。
「お待たせいたしました。パリジャンでございます」
私は燃えるような赤いカクテルを注いだグラスを、彼女の目の前に差し出した。
「カシスのフルーティーな香りと、ジンの個性的な風味をお楽しみくださいませ」
「これが私に合う理由は何?」
またしても挑戦的な言葉。
「おいおい」
そんな彼女をたしなめるふうでもなく、泰兄…ううん、その男性は笑った。
むしろ私がどう受け答えするのか、それをおもしろがってるみたいに。
「その赤いネックレスがとてもお似合いでしたので」
「それだけ?」
「失礼ですが、お客さまは1月生まれではございませんか」
「だったら何よ」
私は、1月の誕生石がガーネットであること、そしてそのネックレスに付いているのがまさにその石であることを話した。
そしてこう付け足した。
「赤がこんなにお似合いになる方、しかもそのような大胆なデザインのものがお似合いになる方はそうおられません」
「口がうまいのね」
「大切な方からのプレゼントなのでしょうね」
私がそう言い終わらないうちに、彼女のとがった表情が一瞬で和やかになった。
「ええ、そう。これはさっき彼にもらったばかりなの。クリスマスが近いから」
そう言って隣に艶っぽい視線を送る。
「羨ましい限りです」
私には彼を見ることができなかった。


