「だめよ!今日は帰って!お願いだから早く!」


彼の腕を揺すると、店を出るように強く言った。


「ねぇ!早く帰って!!」


何をしてるの、早く帰って!危険よ!


慌てる私とは正反対に、彼は厳しい顔つきながらも落ち着いた口調で言った。


「おまえは奥に入ってろ」


「何を言ってるの!」


「いいから行け」


静かだけれど不気味な響きのあるその声を残して、私の横を通り過ぎる。


泰兄…?


何が何だかわからない私の耳に、須賀の男の信じられない言葉が飛び込んできた。


「やっとおでましかよ」


え?


「圭条会橘組、組長代行の…」


何を言ってるの…


「相原泰輔さん」


今…何て…?


嘘、でしょ?


泰兄が…


泰兄が、圭条会の組長代行?


人を殺したっていう?


嘘…


「どうしても俺と話がしたいというのは、おまえたちか」


泰兄のその言葉に、足下の床が抜け落ちるような感覚。


いや、嘘だって言って…


お願いだから、嘘だって言って…


泰兄!!


彼の後ろ姿がぼやけ、激しいめまいが私を襲った。