酒も入っているせいか、再び須賀一家が大声を上げだした。
圭条会側が何を言っても「組長代行を呼べ」の一点張り。
今回は相手も複数ときて、圭条会もうかつに動くことができないのだろう。
なぜなら「今日はいろいろと準備してるからな」という須賀の男の言葉が凶器の存在をほのめかしていたから。
両者の話し合いは、一向に進む気配がなかった。
埒があかないと判断した圭条会の一人が、電話で誰かと話し始めた。
相手はおそらくその「組長代行」。
人の命を奪ってまで、今の地位を手に入れたやつ…
お父さんとお母さんのことが頭をよぎった。
「真琴ちゃん、大丈夫?顔色が悪いわよ」
恵美さんが囁くように訊いた。
「何とか…」
苦しさにあえぐように答え、私はやっとの思いで立ち上がった。
にらみつけるように「彼ら」に視線を向ける。
「お、姉ちゃん、いたのかよ。この前の威勢のよさはどうしたんだ?」
そいつは黄色いヤニだらけの歯を見せたのも束の間、ものすごい形相に変わった。
「なんだぁ!その目は!ふざけんなよ!」
「どうかこの子だけは…!」
私をかばうように間に入ったマスターの胸ぐらを「うるせぇ!」とつかむ男。
「カタギに手を出すな」という圭条会の怒鳴り声。
あっという間に、男たちは互いを掴み合う。
「真琴ちゃん、今のうちに」
恵美さんに肩を抱かれて店の奥に入ろうとした時だった。
チリリリリン…
頭上でドアベルが声をあげた。
店内にいた皆が顔を上げる。
コツリ、コツリ…
その独特の間合いの靴音に、恵美さんの手を振り払った私。
螺旋階段に向かって走り出す。
タイトスカートのせいで、足が思うように出ず苛立った。
「泰兄!」
階段を降りきった彼の前に、私は立ちはだかった。


