Yesterdayに入るや否や、マスターと恵美さんがいつも以上の笑顔で迎えてくれた。
「お誕生日おめでとう!」
「やだ、マスターったら」
「あなた、誕生日は明日!」
「あ、そっかそっか。でもあと5時間切ったじゃないか」
「勇作くんは?やっぱり無理だって?」
「ええ、すみません。せっかくお誘いいただいたのに」
「仕事じゃ仕方ないさ。男から仕事を取ったら何も残らないからな」
最近、元気のないお兄ちゃん。
これも私の悩みのひとつ。
一人暮らしをしないかって言い出してから、どこか様子が変。
千春さんとうまくいってないのかな…
「ほらほら、今夜の主役がそんな顔しない!」
背中を勢いよくたたかれ、着替えをしに奥に入る。
鏡に映った自分を見ていても、考えるのはやはり彼のこと。
今日、来て欲しい…
きっと無理だろうというあきらめの気持ちと、もしかしたらという淡い期待が揺らめく。
人を好きになるって、楽しくてウキウキすることばかりじゃない。
ヤキモキしたり、期待しすぎてかえってガッカリしたり…
恋って…大変…
23時を過ぎると、常連さんがちらほらと店にやって来る。
明日が土曜日だということもあって、いつもより賑やかな店内。
「真琴ちゃん、ちょっと早いけど、お誕生日おめでとう」
そう言って小さなブーケをプレゼントしてくれる方もいた。
「え!真琴ちゃん誕生日なの?いつ?今日?明日?ってかあとちょっとで日付変わるじゃん。何にもプレゼント用意してないよぉ」
こうやって慌てて笑わせてくれる方もいれば、「俺のおごり、好きなもの飲みなよ」って言ってくださる方もいる。
多くの笑顔に囲まれながら、時計の針は12時をさした。
一斉に拍手が起こる。
「カンパーイ」そんな声があちらこちらからあがった。
グラスを差し出してくれるお客さまに、私もそっとグラスを合わせる。
事情を知らなかった方も初めて来店された方も、お酒の力もあってか次第に一緒に盛り上がった。


