ふたり。-Triangle Love の果てに

~片桐真琴~


明日は私の23歳の誕生日。


その瞬間を職場のYesterdayで迎えることになるけれど、意外とそれもおもしろい。


常連のお客さまも来てくださるというし、さしずめミニパーティーといったところ。


でも、泰兄は…たぶん来ない。


何となくそんな気がする。


「会えない」なんて言いつつも、仕事が終わった後はいつものところで待っていてくれるのに。


今夜はきっと来てくれそうにない…それは私の予感。



その上、お兄ちゃんも仕事の取材があるとかで来れない。


しっかり後でお祝いしてもらわなきゃ。


でもその日の夕方、お兄ちゃんが仕事の合間をぬって、シトラスに顔を出してくれた。


「あら、いらっしゃい」


「今日は邪険にしないんだな。いつもは来るなって言うくせに」


「今日は特別。私の誕生日の前夜祭だから」


「前夜祭、ね。これはまた一国のお姫様みたいなことを言って」


苦笑しながら、お兄ちゃんはカウンター席についた。


「ねぇ、お兄ちゃん。やっぱり今夜はyesterdayには来れない?少しでもいいの。せっかくマスターが誘ってくれてるから…」


「ああ、ごめん。無理そうなんだ、本当にごめん」


「仕方ないわね」


私が淹れたてのコーヒーを出したところで、ゆり子さんが買い物から帰ってきた。


「お留守番ありがとう。あら、勇作さん、いらしてたの」


「お邪魔してます」


「ほんとに邪魔よ」


口を尖らせる私。


「参ったな、パーティーに行けないって言った途端にこうだもんなぁ」


「勇作さんはお仕事?残念ね」


「ええ、まぁ。それで真琴が機嫌悪くて」


「かわいい妹よりも仕事なんですって」


そう言ってソッポを向く私に、ゆり子さんは笑った。


「真琴ちゃんったら、寂しいからそんな言い方して」


「そんなんじゃないですっ」


慌てて手を振る私を見て、ゆり子さんは「図星」と言いながら後ろ手に隠していた包みを持ち上げた。


「たいしたことできないんだけど、ケーキ買ってきたの。明日でもよかったんだけど、明日は土曜でお客さんが多いから。さ、誰も来ないうちに食べちゃいましょ。ロウソクもちゃんともらってきたのよ」


ねぇ、お兄ちゃん…


私たちは幸せね、本当に幸せね。


周りにこんなにも親切な人たちがいてくれる。


お兄ちゃんを見ると、私の気持ちが伝わったのか、黙って頷いてくれた。


そして私たちは、ゆり子さんにゆっくりと頭を下げた。