「生まれてこなきゃよかった」
「坊ちゃん!言っていいことと悪いことがあります!」
「だってそうだろ!俺はずっと死ぬまでヤクザの子なんだ。大人になって俺がヤクザにならなくても、みんなその子どもだってことだけで離れていくに決まってる!今だってそうなんだから!何のために生まれてきたのかわかんないよ!」
普段感情をあらわにしない少年が、声を荒げる。
目にいっぱい涙をためて、若干12歳の子どもが「生まれてこなければよかった」なんてほざいてる。
この俺の目の前で。
無性に腹がたってきた。
「ふざけんなよ」
俺は健吾さんをにらみつけた。
「おまえ、親のいない俺に向かってよくも自分はひとりぼっちだなんて、何のために生きてるのかなんて言えるな」
「…泰輔?」
「周りの若い衆の中に、幸せな家庭で育ったやつがいるか?親に愛されて育ったやつがいるか?いないだろ!だからあいつらはこの世界に入ったんだ!たとえ義理でも兄貴が欲しい、親がほしいってな!そんな中で、おまえには両親がちゃんといる。運動会には一番いい席でおまえを見たい、コーラはむし歯になるから飲むな、なんて言ってくれる親がいるだろ!」
健吾さんは手に持ったコーラに視線を落とした。
「贅沢なんだよ!生まれてこなきゃよかった?でもおまえは鶴崎家に生まれちまったんだよ!今さらどうしようもねぇこと言ってんじゃねぇよ」
「だって…」
「友達が何だよ。そいつらが本当の友達なら、おまえが誰であろうと離れたりはしない」
ヒック、ヒックとしゃくりあげるように、彼は泣き出した。
言い過ぎたか、と頭に血がのぼった自分に反省する俺。
やはりガキに泣かれると弱いタイプらしい。
「いや、あの…」
困り果てた俺は、昔天宮に言われたことを思い出した。
「えっと、いいですか、坊ちゃん。坊ちゃんは鶴崎家に落ちた種です。芽が出て、根が張って育っていく。それは運命であって変えることはできません」
ますます健吾さんのしゃくりあげは、激しさを増す。
「他人にこてんぱんにやられることも、往々にしてあります。花も咲かせられないほど踏みつけられてつらいこともあります。でもいいですよ、それでも」
「は…花が…ひっ、咲か、咲かないのに?ひっく、何がいいの…ひっ…意味ないじゃん」
真っ赤な目が助けを求めるように、俺を見る。


