運命の出会い。
もしそんなものがあるのだとしたら、この夜のことを言うに違いない。
それは、私のカウンターにいらしてくれる数少ないお客さまと会話を楽しんでいる時だった。
一組のカップルが来店した。
薄暗い店内で顔はよく見えなかったけれど、スーツ姿の若い長身の男性はマスターの常連さんだとわかった。
隣には足の長いスタイル抜群の女性。
私は「いらっしゃいませ」と声をかけると、また目の前のお客さまとの会話に戻った。
彼らはマスターとなにやら言葉を交わしている。
その様子を私は目の端でずっととらえていた。
気になった。
だってしきりに彼らに向かって頭を下げたマスターが、私の方を見ていたから。
きっと私のカウンターにしか空席がないことを謝っているにちがいない。
だってマスターのカウンターも恵美さんのカウンターもいっぱいだから。
私はとうとうそのカップルに目を向けた。
明らかに女性は不機嫌そう。
この暗さでもわかるほど。
よっぽどマスターの席じゃないと気に入らないんだ…
私と目が合うと、彼女はあからさまに嫌な顔をした。
男性はなだめるように彼女の腰に手を回し、こちらへと連れてくる。
「ようこそおいでくださいました」
だけど私は満面の笑みでそのふたりを迎え入れるしかなかった。
小さなキャンドルを一つ、彼らの間に置く。
このキャンドルがカップルの仲を深めてくれることも多々ある。
これで少しは女性の機嫌が直ればいいのに、とふたりを見た。
するとその炎が揺らめき、男性の左こめかみ辺りから眉のあたりまでの傷がくっきりと照らし出した。
その瞬間に、氷水を浴びたような感覚が、私の全身を駆け巡る。
その傷…見覚えがある…
「ちょっとあなた、何ぼんやりしてるのよ」
ふてくされた女性が、指でカウンターをしきりに弾きながら言った。
「も…申し訳ございません。何になさいますか?」
カラカラの喉で声を絞り出すように私は答えると、「Yesterday」と書かれた紙製のコースターを差し出した。


