~相原泰輔~
今日こそはあいつに会わずにいよう、そう思っていても時間が来ると仕事の手を止め、店を出てしまう。
意思に反して、いつもの場所に向かう足。
しばらくすると、聞こえてくるヒールの音に後悔が押し寄せてくる。
俺のこんな気持ちを知るはずもないあいつは、まるで子どものような笑顔で駆け寄ってくる。
「仕事はいいの?今日は無理かもって思ってたのに。でも嬉しい、しばらく会えない、なんて言ってたから余計に」
なぁ、マコ。
会わずにすむ恋なら、どれほど楽だったろう。
どれほどあきらめがつきやすかったろう。
少なくとも、こんなに苦しい想いをしなくてよかったはずだ。
俺はおまえのそばにいてはいけない、そう思っていても、結局こうやって今日もまた抱きしめてしまう。
しなやかなその身体を引き寄せるほどに、この身がもだえるほどの痛みが胸を襲う。
「明日、やっぱりYesterdayに来るのは無理?」
そういえば、誕生日だったな。
「わからない、時間があれば、とだけ言っておく」
行けるわけがないのに、こんな曖昧は返事をする俺は卑怯者だ。
「仕方ないわね、ちゃんと埋め合わせしてもらわなきゃ」
「…そうだな」
マコ…明日で俺たちは終わりだ。
おまえとこうやって言葉を交わすのも、見つめ合うのも、身を寄せ合うのも…
すべて明日でおしまいだ。
天宮にあのことを聞かされた時点で、早く決着をつけるべきだった。
時が経つほどに、コイツを手放したくない想いが強くなってしまった。
もうこれ以上引きずるわけにはいかない。
明日で、俺とおまえは何の関係もない、赤の他人になる。
そうするのが一番なんだ。
なぜなら…
俺はおまえから両親を奪った、憎んでも憎みきれない組織の一員だからだ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。明日もここで待ってる。おまえに話があるんだ」
「わかったわ」
微笑んで口づけをせがむマコに、俺はためらいながら応えた。
これが最後だと自分に言い聞かせながら。
明日、全てを打ち明けた後、もうおまえに触れることはかなわないのだから…


