「でも大丈夫よ、私は。立ち止まってちゃいけないの、前に進まなきゃ」
それを教えてくれたのは、あなたよ。
すると突然彼は私を抱きしめた。
「ねぇ、天宮先生と何かあったの?」
何も答えてくれないまま、その腕に力が入るだけ。
言いたくないのなら、言わなくていい。
私もそっと背に手を回し、彼の胸に頬を押し当てた。
好きよ、泰兄。
愛してる、誰よりも愛してる。
砂浜に残されたふたりの足跡。
彼の後を追うようについた私のもの。
明日になれば風で運ばれた砂が、それらを消してしまうに違いない。
私たちがここにはいなかったかのように。
でもね、泰兄。
私の心の中には残ってたのよ。
幼い頃の、あなたへの淡い想いが…
だから、その足跡を次はあなたがたどってきて。
そして私に追いついたら、同じ瞬間に同じ歩幅であなたと共に歩んでいきたいの。
彼を見上げると、目が合った。
ぎこちなく微笑むその唇が、今日に限って何か言いたげだった。
なのに私はその唇が動く前に、自分から口づけをした。
愛してる、そう何度も心の中で繰り返しながら。


